ハイエク『隷属への道』(20) 金融政策 vs. 財政政策

経済活動の一般的な変動と、それに伴って繰り返し発生する大規模な失業の波に対処していくという、この上なく重要な問題が存在する。これこそが、われわれの時代にとっては最も重大で最も緊急を要する問題の1つであることは、いまさら言うまでもない。これを解決するにはいい意味での計画化を大幅に必要とするが、だからといって、計画主義者が市場に取って替えるべきだと主張しているような、特別な計画化が要求されるわけではない。少なくともそのような手段は不可欠ではまったくない。実のところ、多くの経済学者は、その究極的な治療策は、金融政策の分野で発見されるだろうと考え、しかもその対策は19世紀の自由主義とさえあらゆる点で両立できるようなものだろうと、希望的な判断を下している。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、pp. 156-157)

 米国のノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンは、

《私自身は、過去の例を広く調査した結果…経済安定性の差は金融制度の違いに起因すると考えるようになった。過去の事例から判断する限り、第1次世界大戦中と終戦直後に起きた物価騰貴は、その3分の1は連邦準備制度に原因がある。以前の銀行制度がそのまま維持されていたら、あれほどの物価騰貴は発生しなかっただろう。また1920~21年、1929~33年、1937~38年の3度にわたる不況があそこまで深刻化したのは、連邦準備制度がやるべきことをやらず、やるべきでないことをしたからで、以前の通貨・銀行制度下ではああはならなかったはずだ。景気後退という程度のものであれば、あの時期にも別の時期にも発生したであろう。だがあれほど深刻な不況にまで進行した可能性は、きわめて低い》(M・フリードマン『資本主義と自由』(日経BPクラシックス)村井章子訳、p. 103

と言う。

《もちろん、経済学者の中には、この間題は、政府の大規模な公共事業がきわめて巧みなタイミングで実施されることによって、初めて本当の解決が期待できるのだと信じている人々もいる。だが、このような解決策は、自由競争の領域にはるかに深刻な制限をもたらすかもしれない。この方向へ向けての実験がなされると、すべての経済活動が、政府統制と財政支出の増減に、より大きく依存していくことになる可能性があり、それを回避したいのであれば、その一つ一つの政策ごとにきわめて慎重な考察をしていかなければならない》(ハイエク、同)

 が、フリードマンは、ケインズが主張する不況期における政府による公共事業実施の必要性を真っ向から否定する。

《私の知る限りでは、ケインズ理論を裏付ける系統的なデータや一貫性のある証拠は存在しない。言ってみれば経済神話のような説であって、経済分析や定量的な研究で実証されていないのである。にもかかわらず絶大な影響力を持ち、政府が経済活動や生活に大規模に介入することについて幅広い支持を得るにいたっている》(M・フリードマン、同、p. 167

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