元々老人は若い漁師と違って海に対して宥和(ゆうわ)的であった。
が、一旦海へ釣りに出ると漁師魂に火が点(つ)いてしまう。
戦闘には2種類ある。大カジキとの死闘は、「同胞」との気高き闘いだった。一方、仕留めた大カジキを舟脇に括り付けて帰港する際、魚の血の臭いを嗅ぎつけ獲物を食い荒らそうとするサメと繰り広げた戦いは「敵」を打ちのめさんとする掃討戦であった。
老人は、
と何度も口にする。が、いつも老人の身の回りの世話をしてくれる少年は今はそばにいない。老人は独り戦わねばならない。そのことが戦いの崇高さを醸(かも)し出す。
独り戦いに赴(おもむ)いてこその戦士である。戦士たるもの戦わねばならない。が、そこには「愛」があるのか。威厳と誇りがぶつかり合う「気高さ」があるのか。老人のこだわりはそこにある。
【続】
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