ハイエク『隷属への道』(47) 反「労働の再分配」
短期的に見れば、「可能な最大限の雇用」というものは、すべての人々に対して臨時的であれ雇用を与えたり、貨幣供給の拡大を行なうことによって、いつでも作り出すことができるだろう。だが、このような最大限の雇用は、累進的に加速されていくインフレ的な拡大政策によってだけ可能になるものでしかなく、それがもたらす結果といえば、諸条件が変化していくことによって必要とされるようになる、諸産業間における労働の再分配を妨害することである。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 285)
ケインズ理論は、不況となって失業者が増加するのは偏(ひとえ)に国内の需要が不足しているからだとして、政府が公共投資を行うことを求めるわけであるが、ハイエクは、このような施策は労働市場の自由を損なうものだと言うのである。
しかも、実のところは、このような再分配は、働く人々が自由に自分たちの仕事を選択することができるかぎり、ある程度の時間の遅れののちに(したがってその間にある程度の失業は生じさせるものの)、必ず達成することのできる種類の再分配なのである。(同)
一時的に失業者が増えたとしても、少し経てば失業者はまた新たな職業に就くわけだから、政府が焦って就職を斡旋(あっせん)するには及ばないということである。
それゆえ、金融政策という手段によって最大限の雇用の達成を常に図ろうとすることは、究極的には「完全雇用」という目的それ自体や、これにかかわる他の諸目的の達成を、確実に不可能とさせてしまう政策でしかない。しかもこの政策は、労働の生産性を低下させていく傾向を持っており、その結果、つじつま合わせ的な政策手段を採用しないかぎり、現在の賃金水準において雇用され続けることができる労働人口の比率は、常に減少していくのである。(同)
失業者を減らすために「公共投資」を行い続ければ、それが既得権益化してしまうだろう。詰まり、一旦「公共投資」をやり始めれば、止(や)められなくなってしまう。よって、この「先行投資」は永遠に回収されなくなってしまい、借金だけが積み上がるという構図になる。
重要なことは、貧困の問題を経済成長によってではなく、「所得の再分配」という近視眼的な方法によって解決しようとして、様々な階級の手取り所得を広汎に減少させてしまい、その結果として、それらの人々を既存の政治秩序に対する、断固たる敵にしてしまうようなことがあってはならない、という点である。欧州大陸において全体主義が台頭することになった1つの決定的な要因は、それに先立つ数年の間に財産や地位を奪われてしまった巨大な中産階級の存在であった(同、p. 287)
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