ハイエク『隷属への道』(52) UNは国際連合に非(あら)ず

国際的な当局というものは、諸国民が自らの生活を発展させていけるような、秩序の維持と環境条件の創設をなすのみにとどまるならば、正義にもとることもなく、経済の繁栄に大きく貢献するものとなろう。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 314)

 <国際的な当局>と言えば、ほとんどの日本人が「国際連合」を思い浮かべるに違いない。が、「国際連合」は日本語における誤訳であって、実態は第2次大戦の戦勝国連合でしかない。だから名前もThe United Nations(UN)となっているのである。UNが戦勝国連合である証拠は、常任理事国が米英仏露中の5カ国(P5)で構成されており、「拒否権」という特権を独占していることからも分かる。したがって、公正な国際機関を創るためには、現UNを一旦解散することが必要となるのではないかと思われる。戦後日本には、しばしば国連至上主義のような幻想が見られるが、実態をよく見極めることが必要であろう。

われわれが必要とし、またその実現が可能だと希望を持つこともできるのは、経済的利害関係を抑制できる能力を持ち、自らは各国間の経済的ゲームに巻き込まれていないので、各国間に経済的な利害の衝突が起きればこれを真に公平に裁定できる能力を持っていて、しかも各国より強力な政治的権力である。

ここで必要とされているのは、各国の国民に対して何をなすべきかを命じることのできる権力は持っていないが、ある国の国民が他国の国民に被害を与える行為をしないように抑制できる権力は持っていなければならない、1つの国際的な政治当局である。このような国際的当局へ譲渡しなければならない権力は、近来、諸国の政府によって行使されてきた新しい種類の権力ではなくて、平和な国際関係を維持するために絶対不可欠な最低限の権力、すなわち本質的にみて、極端に自由主義的な「自由放任」国家が持っている権力と同じものである。

そして、一国の分野においてよりもさらにいっそう不可欠だとさえ言わなければならないことは、国際的当局が持つことになるこれらの諸権力が、「法の支配」によって巌格に制限されなければならない、という点である。(同、p. 320

 UNはP5の恣意的統治下に置かれてしまっている。だからUNは解散し、「法の支配」下に置かれた新たな国際機関を創設する必要があるのである。

 厳密に限定された諸権力が1つの国際的当局へと委譲され、他のすべての側面についてはそれぞれの諸国が自国内の事柄に依然として責任を持ち続けていくという形を可能にする国際的な政府とは、言うまでもなく連邦制という形態である。この連邦制こそ、諸国民の独立への正当な要望を妨げることなく、確固とした国際秩序を創り出せる唯一の方法なのだ(同、p. 321

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