ハイエク『隷属への道』(53)【最終回】「国際連邦」が必要だ

国際的な権力を創設する上で障害になっているのは、国際的な権力は、現代の国家が保持している、事実上無制限な権力のすべてを掌握する必要があるという考え方である。しかし、連邦制度のもとでは権力が分割されるから、この種の無制限な国際的権力はまったく必要ない。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 322)

 連邦制であれば、権力が分散される。したがって、国際機関を創る際は、ハイエクの言うように連邦制を採用すべきであった。が、実際は、United Nations(連合国)という名の戦勝国が世界を牛耳る権力体が創られ現在に至っている。

民衆一般や将来の指導者たちのために、政治的訓練をしてくれる学校を提供するのが地方自治である。この地方自治という偉大な手段に依存せずに、民主主義がうまく運用されたためしはどこにもない。(同、p. 324

 このことはジェームズ・ブライスの言葉として有名である。

it is enough to observe that the countries in which democratic government has most attracted the interest of the people and drawn talent from their ranks have been Switzerland and the United States, especially those northern and western States in which rural local government has been most developed. These examples justify the maxim that the best school of democracy, and the best guarantee for its success, is the practice of local self-government. Viscount James Bryce, Modern Democracies, vol. 1: CHAPTER XII: local self-government

(民主政治が最も人々の関心を集め、その中から才能ある人材を引き出してきたのは、スイスと合衆国、特に地方の地方自治体が最も発達した北部と西部の州であることを見れば十分だ。デモクラシーの最良の学校であり、デモクラシーが成功するための最良の保証となるものは、地方自治の実践であるという格言をこれらの例が立証している)― ジェームズ・ブライス『近代デモクラシー』

普通の人々が公的な事象に、自分たちが知っている世界と関わりがあるという理由で真剣に関与できるのは、次のような場合だけである。すなわち、大半の人々が身近によく知っている事柄に関して、これらに対する責任がどういうことであるかを学び取ることができ、実際にも責任を取ることができる場合である。言い換えれば、人々が行動する際の指標となるのは、人々の必要についての理論的知識などでなく、近隣の人々への気遣いのようなものである場合、ということである。(同、pp. 324-325

 身近な地方自治を軽んじ、したがって、地方自治から学ぼうとしない頭でっかちな者たちが、マスコミに煽られる形でいきなり国政に物申したところで、地に足の着かぬ夢物語しか語ることが出来ないのも当然のことであろう。

 個人に対する国家の権力を有効に制限してくれる国際的当局は、平和を擁護する最良の手段の1つとなるだろう。(同、pp. 325-326

 詰まり、「国際連邦」の創設が世界平和のために求められるということだ。

国際的な「法の支配」は、個人に対する国家の暴政から保護してくれることと同様に、各国の共同体に対して新しい超大国が行なう圧制から、保護してくれることの保証にもならなければならない。(同、p. 336

 考え方はその通りなのであるが、「法の支配」には世界共通の法(common law)が必要である。が、世界規模の「コモンロー」はまだまだ未熟と言わざるを得ない。未だ道遠しである。

われわれの目標は、単一の万能な超国家を樹立することでもなければ、いわゆる「自由諸国」間のゆるやかな連合でもなくて、自由な人々によって構成される諸国家からなる1つの共同体でなければならない。(同)【了】

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