オークショット「政治教育」(9)政治活動の伝統

political crisis (even when it seems to be imposed upon a society by changes beyond its control) always appears within a tradition of political activity; and 'salvation' comes from the unimpaired resources of the tradition itself. Those societies which retain, in changing circumstances, a lively sense of their own identity and continuity (which are without that hatred of their own experience which makes them desire to efface it) are to be counted fortunate, not because they possess what others lack, but because they have already mobilized what none is without and all, in fact, rely upon. -- Michael Oakeshott, Political Education: FOUR

(政治的危機は(たとえそれが制御できない変化によって社会に出来(しゅったい)したように思われる場合でさえ)常に政治活動の伝統の中に現れるのであり、「救い」は伝統それ自体の損なわれていない資源から齎(もたら)されるのである。変化する状況の中で、自分自身のアイデンティティと連続性についての生き生きとした感覚を保持する(自分自身の経験を消し去ろうとする嫌悪感を持たない)社会は、幸運と見做(みな)される。それは、他の社会に欠けているものを所有しているからではなく、どこにも無くはなく、実際、すべてが依存するものをすでに動員しているからである)

 <政治的危機>は、政治活動の伝統の中に生じ、その救済もまた政治活動の伝統の中から得られる。にもかかわらず、政治活動の伝統を否定してしまっては、適切な救済活動が行えなくなってしまうだろう。本来、政治活動の試行錯誤を通して得られた何某(なにがし)かの「知恵」や「教訓」がどの社会にも存在する。問題は、これを活用しようとするか否かである。進歩史観に囚(とら)われ、過去を劣ったものとし見向きもしないから、歴史を断絶してしまわねばならなくなってしまうのである。

行動の伝統とは、我々が不自由で満たされない人生を、むりやり送るべく定めおかれているわだちなどではない。(オークショット「政治教育」(勁草書房)、p. 147

 <行動の伝統>とは、人生を拘束する<轍(わだち)>ではない。「民族の行動の大きな流れ」を表すものであって、この流れを利用しようが逆らおうが自由である。

政治に属する知識と教育…それは、政治的行動の我々の伝統に関する、できるかぎり深められた知識ということになる。確かに、他の知識も付加されるに越したことはない。しかし、これこそそれなくしては、他のどんな知識を学ぼうとも、それらを我々が活用することができなくなってしまうような、枢要の知識なのである。(同、p. 148

 民族集団の中で上手く暮らしていくためには、<伝統>という「民族の行動の大きな流れ」を知っておくことが絶対的に必要である。

行動の伝統は、それを捉えようとする場合、はなはだやっかいなしろものである。実際、それは本質的に捉えがたいものだとさえ、思われるかもしれない。それは固定されたものでも、完成されたものでもない。変らざる中心があって、それをめざして理解を深めればよい、というものではない。知られ得る主要目的など、何もないし、発見されるべき不変の方向も、ありはしない。また、模倣すべき範型もなければ、実現すべき理想や、従わねばならぬ規則もない。

そのある部分は、他の部分よりゆっくりと変化するかもしれないが、不壊の部分などはどこにもないのだ。すべては変遷する。それにもかかわらず、行動の伝統は、もろく捉えにくいからといって、同一性を欠くわけではない。そのすべての部分が同時に変るわけではなく、それがこうむる諸変化がすでにその中に潜在しているという事実によって、それを知識の対象とすることができるのである。(同、pp. 148-149

 <伝統>とは何かを言葉で簡単に言い表すことは出来ない。が、簡単に言葉に表すことは出来なくても、「民族の行動の大きな流れ」が存在することを誰も否定することは出来ないであろう。

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