アダム・スミス「公平な観察者」について(33)私達が興味を引くのは虚栄心

明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。

It is because mankind are disposed to sympathize more entirely with our joy than with our sorrow, that we make parade of our riches, and conceal our poverty. Nothing is so mortifying as to be obliged to expose our distress to the view of the public, and to feel, that though our situation is open to the eyes of all mankind, no mortal conceives for us the half of what we suffer. Nay, it is chiefly from this regard to the sentiments of mankind, that we pursue riches and avoid poverty. – Adam Smith, The Theory of Moral Sentiments, Part 1. Section 3. Chap. 2

(私達が豊かさを見せびらかし、貧しさを隠すのは、人間には悲しみよりも喜びの方に共感する傾向があるからである。自分の苦境が公衆の面前にやむなく晒(さら)され、自分の置かれた状況がすべての人間の目に晒されているにもかかわらず、自分の苦しみの半分も自分たちのために考えてはくれる人間がいないと感じることほど、やるせないことはない。否、私達が富を追い求め、貧しさを避けるのは、主としてこのような人間の感情に配慮するためである)― アダム・スミス『道徳感情論』第1部 第3篇 第2

From whence, then, arises that emulation which runs through all the different ranks of men, and what are the advantages which we propose by that great purpose of human life which we call bettering our condition? To be observed, to be attended to, to be taken notice of with sympathy, complacency, and approbation, are all the advantages which we can propose to derive from it. It is the vanity, not the ease, or the pleasure, which interests us. – Ibid.

(では、様々な階層の人間を貫く競争は、どこから生まれ、自分の境遇を改善すると称する人間生活の大目的によって目論(もくろ)む利益とは何だろうか。共感、満足、称賛の目で観察され、関心を向けられ、注目されることだけが、私達がそこから得ようと目論める利益である。私達が興味を引くのは、安楽や快楽ではなく虚栄心である)― 同

 パスカルは言う。

《わたしたちは、自分が固有に持つ生活、本来のあるがままの自分においてする生活に満足しない。つまり、他の人の観念の中で、1つの架空の生活をいとなむことを望み、そのために見せかけばかりに熱中する。わたしたちはたえず架空の自分自身を美しくよそおい、それを保持することに汲々とし、真の自分をなおざりにする。そして、自分に落着きとか寛大な心とか誠実さとかがある時には、何とかそれを人に知ってもらおうと一生懸命になり、そうした徳を架空の自分の方に結びつける。むしろ、本当の自分からそれらを引き離しても、架空の自分の方にくっつけようとする。勇敢な人だという評判を得るためなら、よろこんで卑怯者にもなりかねない。架空の自分がなければ、本当の自分に満足できず、しばしば架空のものと本当のものとを取り換えようとするとは、本来のわたしたち自身が無にひとしい存在であることの大きい証拠ではないか。つまり、自分の名誉をたもつために死なないような者は、恥知らずになるのだからである》(パスカル『パンセ』(角川文庫)田辺保訳:147

But vanity is always founded upon the belief of our being the object of attention and approbation. The rich man glories in his riches, because he feels that they naturally draw upon him the attention of the world, and that mankind are disposed to go along with him in all those agreeable emotions with which the advantages of his situation so readily inspire him. – Ibid.

(しかし、虚栄心とは常に、自分が注目され、称賛される対象であるという確信の上に成り立つものである。金持ちが自分の富をほくそ笑むのは、その富が自然に世間の注目を集め、自分の置かれた状況の利点が容易に彼に抱かせる好意的な感情すべてにおいて、人々が彼に同調してくれると感じるからである)― 同

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