アダム・スミス「公平な観察者」について(35)世間は「公正な観察者」には成れない
スミスは、『道徳感情論』第6版に、新たに以下のようにな内容を付け加えた。
This disposition to admire, and almost to worship, the rich and the powerful, and to despise, or, at least, to neglect persons of poor and mean condition, though necessary both to establish and to maintain the distinction of ranks and the order of society, is, at the same time, the great and most universal cause of the corruption of our moral sentiments. That wealth and greatness are often regarded with the respect and admiration which are due only to wisdom and virtue; and that the contempt, of which vice and folly are the only proper objects, is often most unjustly bestowed upon poverty and weakness, has been the complaint of moralists in all ages.– Adam Smith, The Theory of Moral Sentiments, 6th edition: Part 1. Section 3. Chap. 3
(金持ちや権力者を崇拝紛いに賞賛し、貧しく卑しい身分の人々を軽蔑するとまで言わずとも無視するこの気質は、身分区別や社会秩序を確立し維持するために必要なことなのではあるが、その一方で、私達の道徳感情を堕落させる大きな、そして最も普遍的な原因である。富と偉大さが、しばしば、知恵と美徳にしか与えられるべきでない尊敬と称賛の目で見られていることや、悪徳と愚行だけが適切な対象となるべき軽蔑が、しばしば、極めて不当にも貧しさと弱さに向けられていることは、全時代の道徳家たちの不満であった)― アダム・スミス『道徳感情論』第6版:第1部 第3篇 第3章
《「世間」はしばしば「注意が不十分な観察者」からなっており、誤った評価をする。「世間」では、「知恵と徳の人」ではなく、「富と上流の人」が称賛される。そして、この世間に調子を合わせる多くの人は、富裕な人や上流の人を模倣し、流行を追うことになる。それこそは虚栄の人なのである。「虚栄的な人々は、しばしば、みずから流行にあった不品行な様子をする。実は、彼らはそれを本当には是認していないのである。しかし彼らは、彼ら自身が称賛に値するとは考えていない物事について称賛されたいと思うのだ」》(佐伯啓思『アダム・スミスの誤算』(PHP新書)、pp. 91f)
「長いものには巻かれる」のが世間というものなのだ。詰まり、世間などとても「公正な観察者」には成れないということだ。
We desire both to
be respectable and to be respected. We dread both to be contemptible and to be
contemned. But, upon coming into the world, we soon find that wisdom and virtue
are by no means the sole objects of respect; nor vice and folly, of contempt.
We frequently see the respectful attentions of the world more strongly directed
towards the rich and the great, than towards the wise and the virtuous. We see
frequently the vices and follies of the powerful much less despised than the
poverty and weakness of the innocent. - Ibid.
(私達は、尊敬に値するものであることも尊敬されることも望む。軽蔑に値することも、軽蔑されることも恐れる。しかし、社会に出てすぐに、知恵と美徳だけが尊敬の対象ではなく、悪徳と愚行だけが軽蔑の対象でもないことが分かる。世間からの尊敬の眼差しは、知恵ある者や徳ある者よりも、富める者や偉大な者の方に強く向けられているのを頻繁に目にする。権力者の悪徳や愚行が、罪のない人々の貧しさや弱さほど軽蔑されないのをよく目にするのである)― 同
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