アダム・スミス「公平な観察者」について(37)1万人の無知な熱狂的賞賛者よりも1人のプラトン

The man who neither ascribes to himself, nor wishes that other people should ascribe to him, any other merit besides that which really belongs to him, fears no humiliation, dreads no detection; but rests contented and secure upon the genuine truth and solidity of his own character. His admirers may neither be very numerous nor very loud in their applauses; but the wisest man who sees him the nearest and who knows him the best, admires him the most. – Adam Smith, The Theory of Moral Sentiments, 6th edition: Part 6. Section 2. Chap. 3

(本当に自分に属する以外の功績を、自分に帰属させず、他人が自分に帰属させることも望まない人は、屈辱を恐れず、発覚を恐れず、自分の人格の偽りなき真実と堅固さに満足し安心している。彼を賞賛する人はあまり数は多くないかもしれないし、拍手喝采もあまり大きくはないかもしれないが、彼を最も近くで見、彼を最もよく知る最も賢明な人物であれば、彼を最も賞賛するはずだ)アダム・スミス『道徳感情論』第6版:第6部 第2篇 第3章

To a real wise man the judicious and well-weighed approbation of a single wise man, gives more heartfelt satisfaction than all the noisy applauses of ten thousand ignorant though enthusiastic admirers. He may say with Parmenides, who, upon reading a philosophical discourse before a public assembly at Athens, and observing, that, except Plato, the whole company had left him, continued, notwithstanding, to read on, and said that Plato alone was audience sufficient for him. – Ibid.

(真の賢者にとって、1人の賢者からの賢明で重みのある賞賛は、1万人の無知な熱狂的賞賛者の騒々しい拍手よりも、心からの満足を与えてくれる。彼は、パルメニデスのように言うかもしれない。アテネの公衆の面前で哲学的な講話を読み、プラトンを除いて全員が自分から離れていったのを見た際、それでもなお読み続け、プラトン1人だけが自分にとって十分な聴衆であったと彼が言ったように)― 同

《是認もしくは称賛とは、実際このようなものである。「人類という大群衆」の「疑いもなく弱々しい愚かな感嘆」をえたとしても別に喜ばしいことではない。是認や称賛はもっと確かなものに基づかなければならない。「是認に値する」ということは、もっと確実な情念によらねばならないのだ。そしてここに「胸中の法廷」ということの意味もある。

 この「胸中の法廷」あるいは「内部の裁判官」「神的存在の代理人」は、彼の内部にあって、あたかも中立的な観察者として自らの行為をみる者であり、その意味では一種の自己規制を行う者である。そしてこの「内部の裁判官」の判断の方が「世間の評判」よりも実は重要だというのだ。

われわれがわれわれ自身をこの「内部の裁判官」の観察のもとにおくなら、「世間の判断がどんなものであろうと、われわれはいぜんとして、自分自身のふるまいに満足するに違いなく、そして、われわれの仲間たちの非難にもかかわらず、われわれ自身を、明確な是認の正当で適切な対象とみなすに違いないのである。反対に、内部の人がわれわれを非難するならば、人類のもっとも高い歓呼も、無知と愚かしさによる騒音としかみえないのである」》(佐伯啓思『アダム・スミスの誤算』(PHP新書)、p. 101

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