ハイエク『隷属への道』(8) 唯一の調整手段
競争は、比較的単純な条件で効力を発揮するのではなく、まったく逆であり、現代の分業社会が複雑であればあるだけ、競争こそが、唯一、そういった調整を適切に実現する手段となるのである。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 59)
言い換えれば、複雑化し分業化の進んだ現代社会を調整する手段は<競争>以外に見当たらないということである。
状況が単純であるなら、1人の人間あるいは1つの委員会が、関連するすべての事実を効率的に把握し、有効な統制や計画を行なうことは簡単だろう。しかし、考慮せねばならぬ要因があまりにも多くなり、おおまかな見取図さえ描けなくなった状況では、分権化は避けえない。そうして、分権化が進められると、それぞれをいかにして調整していくかという問題が起こる。つまり、分権化されたそれぞれの当事者が、彼らだけが知りうる事実に従って独自に行動するに任せ、なお、それぞれの計画が相互に調和するような調整は、いかにしたら可能かという問題である。(同)
複雑化した現代社会の全体像を把握し調整することはもはや不可能と言ってよい。にもかかわらず、政府が市場に介入すればどうなるか。ある1つの問題を解決しようとしたら、また別の問題が浮かび上がるといった「モグラ叩き」にしかならないだろう。否、世の中には目に見えない問題もたくさんあるのであるから、眼前の問題だけに目を奪われていては全体的な判断と対応を誤ることにもなりかねない。
きわめて多くの個人が行なう決定が、それぞれどれくらいの重要性を持っているかを判断することは、誰にもできないことであるからこそ、分権化は必要となる。そう考えてみれば、個々の決定の総合的調整が「意図的な統制」でできるはずもないことは明らかだ。(同)
余りにも複雑化し分断化されてしまった社会の全体を把握し適切公正に決定を下すことなど出来やしない。無理にでもやるというなら、有無を言わせぬ強制しか道はない。
調整が唯一可能になるのはある機構が、それぞれの決定者に、自分の決定と他人の決定とがどうやったらうまく折り合うかという情報を伝えることによってである。ところが、どんな単一のセンターも、様々な商品の需要・供給状態に常に影響を与える諸々の変化を、細部に到るまですべて把握したり、それらの情報を即座に収集し広範に伝達したりすることは、まったく不可能である。そのため、諸個人の活動が相互にどのような影響を生み出しているかを自動的に記録し、同時に、諸個人がどんな決定をしたかという結果を明らかにし、またそれに従って諸個人が決定を下していくためのガイドとなるような、何らかの記録装置が必要になる。(同、pp. 59-60)
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