ハイエク『隷属への道』(27) 権力掌握を目論む集団主義
おそらく最も重要な要素は、このようにして結集力の強い同質な支持母体を作るために、熟練した煽動家が採用する計略的な手段に関してのものである。人々が、積極的な意義を持つ事柄よりも、敵を憎むとか自分たちより裕福な暮らしをしている人々を羨(うらや)むとかいった、否定的な政治綱領のほうにはるかに容易に合意しやすいことは、人間性に関する一つの法則とさえ言えるように思われる。
「われわれ」と「彼ら」をはっきりと対照させたり、グループ以外の人々に対して共に闘っていくといったことは、1つのグループを共同の活動へと強固に団結させていくどんな政治的教義にとっても、不可欠な要素であると言えよう。そのためこのようなやり方は、政策への支持のみならず、巨大な大衆の無条件な忠誠をも獲得しようとする人々によって、常に使われている。さらにそれは、彼らの観点からすれば、具体的な政治綱領を提示するより、もっと自由に活動できる余地があるため、はるかに有利なやり方なのである。(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、pp. 180-181)
外部に「敵」を作って内部を固めるお馴染みの手法である。小泉純一郎元首相は、郵政民営化をはじめとする「聖域なき構造改革」に反対する人達を「抵抗勢力」と批判し国民の大きな支持を得た。また、橋下徹元大阪府知事は、「二重行政」をはじめとする古い体質にどっぷり浸かってきた既得権益にメスを入れ喝采を浴びた。
ハイエクは、米国の自由主義神学者R・二―バーの言を引く。
There is an
increasing tendency among modern men to imagine themselves ethical because they
have delegated their vices to larger and larger groups.
(現代人は、どんどん大きな集団に自分たちの悪徳を委ねているので、自分たちが倫理的だと思い違いをする傾向が強くなっている)
アクトン卿やヤコブ・ブルクハルトといった19世紀の偉大な個人主義社会哲学者たちはもちろんのこと、その自由主義的伝統を受け継いだ、バートランド・ラッセルのような現代の社会主義者たちにとっても、権力はそれ自体、常に根源的な悪と見なされてきた。だが、真の集産主義者たちにとって、権力はそれ自体、目的なのだ。(同、p. 187)
これまで社会は<権力>が「悪」であり、だからこそ如何に<権力>を分散させるのかを考えてきた。それが一転、悪であろうとなかろうと、如何に<権力>を手に入れるのかを考える、集産主義という別次元の集団が登場してきたのである。
多数の人々が独立して行使していた権力を単一者の掌中(しゅちゅう)にまとめることは、以前に存在していたどんな権力よりも限りなく大きな権力を作り出すのであり、それははるかに広大な影響力を持つがゆえにほとんど質的にも異なってしまう権力なのである。(同、pp. 187-188)
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