ハイエク『隷属への道』(32) 富は悪なのか

《本国アメリカでは選挙民の反対に遭い、とうてい実現できない社会主義的政策が占領日本では思う存分に実行できる。そこで、彼らは農地改革や財閥解体、あるいは労働運動の奨励などという一連の「民主化政策」を実現化させた。だが、その本質は民主化などではなく、私有財産権の否定であり、富への攻撃だったわけである。

 にもかかわらず、GHQはそれを「日本の民主化」として宣伝し、私有財産を軽視するのが正義であるかのように日本人に教えこんだ。戦後の日本で「富は悪である」という思想が広まった背景には、こうしたGHQの影響も大きかったのである》(渡部昇一『何が日本をおかしくしたのか』(講談社)、p. 135

 「富は悪である」などという箍(たが)をはめた平等は、平等は平等でも「貧しさの中での平等」にしかならない。宗教的に自ら富を忌避するのは勝手だが、この考えを社会全体に求めるのは間違っている。

《第2次大戦直後には、アメリカ人の中にも左翼的な思想に染まっていた人間は多かった。しかし、東西冷戦が始まるとアメリカでは共産主義者の摘発が行われ(政府高官の中にも少なからずいた)、徹底したレッド・パージの結果、私有財産を否定する思想は力を失っていった。

 一方、日本の場合はそうならなかった…国家社会主義的思想の持ち主が官僚の中に生き残っていたし、大マスコミにおいては左翼の社会主義者が力を持っていた。加えて、教育界では社会主義を奉ずる日教組が日本人の子どもの頭脳を社会主義的に洗脳しつづけていたからである。そのため戦後の日本は、かつてのイギリスと同様、「自由主義陣営の中の社会主義国」になったのである》(同、pp. 135-136

 戦後日本において、大手を振って歩いていた社会主義思想は、1989年にベルリンの壁が崩壊し、潮が引くように消えてしまった。が、憲法をはじめとする戦後体制自体は変わっていないので、日本は未だ社会主義的傾向が色濃く残っているのである。

《およそ欧米先進国の中で、今日の日本ほど私有財産を持っている人が暮らしにくい国はないであろう。高額所得者ともなれば、年収の50パーセントは国税と地方税で“没収される。また、子どもたちに財産を遺そうとしても、相続税によって最大七割が国庫に“没収となる。しかも、外国のように合法的に逃れる道が閉ざされている。

 富を貯えれば貯えるほど、また多く稼げば稼ぐほど、累進課税で税率は高くなる。こうした税制の基盤にあるのは、紛れもない社会主義思想であり、旧ソ連や北朝鮮のそれとなんら変わるところはないのである》(同、p. 136

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