ハイエク『隷属への道』(38) 全体主義の前触れ

保守党による前政権下において、保守党の一般党員たちの中でも「最も有能な人々は……心の底では全員が社会主義者であった」…フェビアン主義時代と同様に、いまでは多くの社会主義者たちが、自由主義者たちよりも保守主義者たちに対して、より大きく共鳴するようになっている(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 247)

 私は、今の自民党を見ているとこれと同じように感じるのである。岸田文雄総理をはじめ、社会主義を信奉する自民党議員が少なくない、それどころか、大勢を占めている可能性すら彼らの発言を聞いていると否定できないように思われるのである。

国家に対するますます増大する畏敬の念、権力に対する崇拝、「大きいことはよいことだ」とする称讃、あらゆることを「組織化」(これをいまや「計画化」と呼ぶようになっている)したいという熱意(同)

が今や社会に蔓延してしまっている。自らが努力するよりも先に、「お上」に助けを求めようとする。そして国家が誰を、何を贔屓(ひいき)するのか次第の「不平等」が発生する。そこでは如何に国家を自分たちの見方に付けるのかが問われることになる。個人の頑張りだけではどうしようもなく、徒党を組んで自分たちの利益になるように政府に圧力を掛けるという仕儀となる。

 英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズが次のような文を書いている。

"even in peace industrial life must remain mobilised. This is what he means by speaking of the 'militarisation of our industrial life' [the title of the work reviewed]. Individualism must come to an end absolutely. A system of regulations must be set up, the object of which is not the greater happiness of the individual (Professor Jaffe is not ashamed to say this in so many words), but the strengthening of the organised unity of the state for the object of attaining the maximum degree of efficiency (Leistungsfähigkeit), the influence of which on individual advantage is only indirect.

-- This hideous doctrine is enshrined in a sort of idealism. The nation will grow into a 'closed unity' and will become, in fact, what Plato declared it should be -- 'Der Mensch im Grossen.' In particular, the coming peace will bring with it a strengthening of the idea of State action in industry…. Foreign investment, emigration, the industrial policy which in recent years had regarded the whole world as a market, are too dangerous. The old order of industry, which is dying to-day, is based on Profit; and the new Germany of the twentieth-century Power without consideration of Profit is to make an end of that system of Capitalism, which came over from England one hundred years ago.

(平時においてさえ、産業生活は動員されたままでなければならない。彼(=クラウス・ジャフィ)が「産業生活の軍事化」(評伝の題名)について語ろうとしているのはこのことである。個人主義は絶対に終わりが来るに違いない。規制制度を作らねばならないが、その目的は、個人の幸福を増大させることではなく(ジャフィ教授は非常に多くの言葉でこのことを語って恥じない)、最大限の効率を達成するために組織化された国家の統一体を強化することであり、その影響は個人の利益に関しては間接的なものでしかない。

――こういった恐ろしい教義がある種の理想主義に祭り上げられている。国は「閉じた統一体」へと成長し、実際、プラトンが宣言したあるべきもの――「大きなスケールの人間」になる。特に、来るべき平和は、産業における国家活動という考えを強めることになる…。近年全世界を市場と見做してきた外国投資、移民、産業政策は、あまりにも危険である。今日なくなりつつある古い産業秩序は利益に基づく。そして、利益を慮(おもんぱか)らない20世紀の大国たる新ドイツが、100年前に英国から伝わった資本主義体制を終わらせるのである)

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