ハイエク『隷属への道』(42) シュンペーター「新結合」

独占がわれわれにとって危険なものとなってきたのは、少数の利益団体としての資本家たちの努力によってではなく、彼らが独占利潤の分け前を与えることで他の人々から獲得してきた支持や、独占を後援することがより正義にかない秩序立った社会を創り出すのを助けるのだと説得された人々の支持を通じて、独占が強化されてきたという事情による(ハイエク『隷属への道』(春秋社)西山千明訳、p. 271)

 「大き過ぎて潰せない」(too big to fail)などと言って政府が市場介入するようなことがあれば、市場から退場すべき斜陽産業が温存されかねず、市場の新陳代謝を阻害することにもなりかねない。

 経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは「新結合」という言葉を用いて市場の新陳代謝について説明した。

《新結合の遂行者が、この新結合によって凌駕排除される旧い慣行的結合において商品の生産過程や商業過程を支配していた人々と同一人である場合もありうるけれども、しかしそれは事物の本質に属するものではない。むしろ、新結合、とくにそれを具現する企業や生産工場などは、その観念からいってもまた原則からいっても、単に旧いものにとって代わるのではなく、一応これと並んで現れるのである。なぜなら旧いものは概して自分自身の中から新しい大躍進をおこなう力をもたないからである》(シュンペーター『経済発展の理論(上)』(岩波文庫)、pp.183-184

 詰まり、

《通常新しいものは旧いものの中から発生するのではなく、むしろ旧いものと並んで登場し、これを.打ち負かし、あらゆる関係を変化させ、その結果、ひとつの特殊な「秩序化の過程」が必要になる》(シュンペーター『経済発展の理論(下)』(岩波文庫)、p. 192

のである。

最近の独占の成長は、組織化された資本と組織化された労働との間における、意図的な共同の結果である面が大きい。そしてこのような共同のもとで、労働の側に属する特権的な各種のグループが、独占企業の利潤を企業側と分かち合うことによって、われわれの共同体一般を犠牲にしてきたのであり、その中でもとりわけ最貧困な人々、すなわちあまり組織化されていない産業で雇用されている人々や、失業してしまった人々を犠牲にしてきたのである。(同)

 まさに企業や労働組合の庇護の下(もと)にない、詰まりは、企業の利益の分配に与(あずか)れない「派遣労働者」や「非正規雇用労働者」がこれにあたるだろう。が、こういった問題を引き起こしているのは、大企業を頂点とする既得権益の固定化にある。大企業の下請けたる中小企業は大企業に頭が上がらず、大企業がスポンサーたるマスコミも大企業に忖度せざるを得ない。政治家も大企業を中心とした経済団体の支持が不可欠なのである。

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