オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(18)ホッブズの独善的用語法

「理性は平和が善であると宣言する」とホップズが言うとき、彼が意味していることは、人はみな平和を推進すべきだということではなく、物のわかった人ならみなそうするだろうということにすぎない。そして彼が「人は誰でも自らの善を欲する。そして自らの善とは平和である」と言うとき、彼が結論として言えるのは、人はみな平和を求めて努力すべきだということではなくて、そうしない人は「自分と矛盾している」ということにすぎない。(オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(勁草書房)、p. 316)

 平和が善であるのは「弱者の論理」である。強者は、戦争に勝利し、優越感に浸り、至福を得ることこそが<善>なのではなかったのか。弱者が平和を望まないとすればおかしいと言えようが、強者はむしろ戦争することによって利得を得るのであるから、そこには自家撞着はない。

確かにホップズが「理性の指針(precept)」とか、さらには「理性の規則」あるいは「理性の法」あるいは「理性の指示(dictate)」とさえ呼ぶものはある。だからそれによると、理性的なものは何らかの仕方で義務を課するかのように見える。しかし彼のあげている例のすべてから明らかなことだが、「理性の指針」は仮言的指針にすぎず、義務と同じ意味を持っていない。(同)

There be some that proceed further; and will not have the Law of Nature, to be those Rules which conduce to the preservation of man’s life on earth; but to the attaining of an eternall felicity after death; to which they think the breach of Covenant may conduce; and consequently be just and reasonable; (such are they that think it a work of merit to kill, or depose, or rebell against, the Soveraigne Power constituted over them by their own consent.) But because there is no naturall knowledge of man’s estate after death; much lesse of the reward that is then to be given to breach of Faith; but onely a beliefe grounded upon other men’s saying, that they know it supernaturally, or that they know those, that knew them, that knew others, that knew it supernaturally; Breach of Faith cannot be called a Precept of Reason, or Nature. -- Thomas Hobbes, LEVIATHAN: PART 1: CHAPTER XV.

(さらに進んで,自然の法則を,地上における人間の生命を維持するのではなく,死後の永遠の至福を達成するための規則だとする者もいる。これには契約の破棄が役立ち,延いては正当かつ合理的だろうと彼らは考える。(彼らは,自らの同意によって自分たちの上に制定された主権者を殺したり,退けたり,主権者に反逆することを1つの功労と考えるような人々である)。しかし、死後の人間の生活状態に関する自然な知識はないし、まして信仰の破棄に対して与えられるべき報酬についてはなおさらである。ただ、他の人間が、自分達は超自然的にそれを知っているとか、超自然的にそれを知り得たという人々を知り得たという人達を知っているという発言に基づいた信仰に過ぎず、信仰の破棄は、理性あるいは自然の教えとは呼べないのである)-- ホッブズ『リヴァイアサン』

節制は「理性の指針である。なぜなら不節制は病気と死に至るから」とホップズは言う。だが健康に生き続けることが義務でなければ、節制は義務ではありえない。そしてホップズにとって健康な生は権利であって義務でないことは明白である。また彼が自然法一般を「理性の指示」と書く時、彼は理性の「言うこと」や「発言」を意味しているのであって、「命令(commands)」を意味しているのではないということを明らかにしている。(同、pp. 316-317

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