オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(35)自然法の創始者「神」

ホッブズによると、法律の課する義務は法律それ自体ではなくその創造者のおかげであり、彼はその創造者であるというだけでなく、命令する権限を持っているとも知られていなければならないのだから、我々の第1の問いは「ホッブズは自然法が全人類にその創造者として知られるような創造者を持つと考えていたのか?」というものでなければならない。そしてもしそうだとすれば、ホッブズは誰がその創造者であると考えていたのか、また彼はこの創造者がいかにしてこの法律の創造者であると知られると考えていたのか?そしてこれとともに、我々はホッブズの著作がこの創造者がこの法律を作る権利についていかなる考えを表わしているのかを考察することが適切だろう。(オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(勁草書房)、pp. 329-330)

 では<自然法>は誰が創ったのか。ここでホッブズは「神」を持ち出す。

我々が今考察している解釈からすると取らざるをえない答は、ホッブズは自然法にはその創造者として万人に知られている創造者があり、この創造者は神自身であり、神の立法権は、その命令に従うべき人々を創造したことにではなく、その万能に由来すると明白に信じていた、というものである。自然法は本当の意味での法であると主張される。それは万能の神の命令であると知られているから、あらゆる状況のあらゆる人間に拘束力を持つというのである。(同、p. 330

 ホッブズは、「神」について次のように述べている。

This perpetuall feare, alwayes accompanying mankind in the ignorance of causes, as it were in the Dark, must needs have for object something. And therefore when there is nothing to be seen, there is nothing to accuse, either of their good, or evill fortune, but some Power, or Agent Invisible: In which sense perhaps it was, that some of the old Poets said, that the Gods were at first created by humane Feare: which spoken of the Gods, (that is to say, of the many Gods of the Gentiles) is very true. But the acknowledging of one God Eternall, Infinite, and Omnipotent, may more easily be derived, from the desire men have to know the causes of naturall bodies, and their severall vertues, and operations; than from the feare of what was to befall them in time to come. -- Thomas Hobbes, LEVIATHAN: PART 1: CHAPTER XII. Of Religion

(この終わりなき恐怖は、まるで暗闇の中にいるように、原因の分からぬ人間に常に付き纏(まと)い、必ず何かを対象として持たざるを得ない。したがって、目に見えるものが何もなければ、幸運や不運の責任を問うものは何もなく、あるのは目に見えぬ「力」あるいは「動作主」だけである。昔の詩人の中に、神々は初め、人間的な恐怖によって創造されたと言う者もいたが、おそらくはこの意味だったのだろう。神々について(すなわち、異教徒の多くの神々について)語られたが、まさにその通りである。しかし、永遠で、無限で、全能の唯一神を受け容れることは、将来自分たちに降りかかるものの恐怖よりも、自然物やそのそれぞれの価値や作用の原因を知りたいという欲求からの方が齎(もたら)され易いのかもしれない)―ホッブズ『リヴァイアサン』第1部 第12章 宗教について

ホッブズは我々の自然的な知識が人間行動のための命令的法律の創造者としての神を知ることを含んでいる(あるいは含みうる)と考えただろうか? それは(控え目に言っても)はなはだ疑わしいままである。(オークショット、同)

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