オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(38)自然法の創造者としての神

自然法は神の法律だから我々はそれにしばられるとホッブズが言っているというのは、厳密でない表現である。彼が言ったのは、もし自然法が本当の意味での法律だったら我々はそれにしばられるだろうし、そしてそれが本当の意味での法律であるのはそれが神によって作られたと知られるときに限る、ということである。そしてそれは結局、自然法はそれが神によって作られたと知っている人々にとってのみ本当の意味での法律だということである。(オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(勁草書房)、p. 332)

 <自然法>は、その創造者としての<神>を認める者のみを縛るということである。

しかし誰がその人々なのか? 全人類でないことは確かである。人類の中で、神をこの法律の創造者であると認める人々だけであることは確かである。すると、自然法は本当の意味での法律でありそれは平和を求めて努力するように全人類を拘束するとホッブズは考えていた、という命題を真剣に信ずることはできない――たとえ彼の著作の中にはそれを支持する表現(そのほとんどは曖昧である)が孤立して存在していようと。(同)

 <自然法>が全人類を拘束するなどということは有り得ない。拘束するのは、<自然法>の創造者としての<神>を認める人々だけである。

 だがそれだけではない。もし神のいわゆる「自然的臣民」さえも、平和を求めて努力するように普遍的に拘束する教えの創造者としての神を自然的には知らないとしたら、ホッブズによれば、彼らはこの種の自然法の創造者としての神を他のいかなる方法でも知らないということも、また明らかである。ホッブズは、彼らがもし平和を求めて努力する義務を人類に課する法律の創造者としての神を「超自然的感覚」(「啓示」か「霊感」)によって知っていると主張するならば、その主張は否定されねばならない、ときっぱり断言した。「超自然的感覚」が人に他のいかなることを知らせるにせよ、それは普遍的法律を知らせたり、普遍的法律の創造者としての神を知らせたりすることはできない。「預言」も、「自然的知識」や「超自然的感覚」が提供できなかったものを提供はできない。(同、p. 332

God declareth his Lawes three wayes; by the Dictates of Naturall Reason, By Revelation, and by the Voyce of some Man, to whom by the operation of Miracles, he procureth credit with the rest. From hence there ariseth a triple Word of God, Rational, Sensible, and Prophetique: to which Correspondeth a triple Hearing; Right Reason, Sense Supernaturall, and Faith. As for Sense Supernaturall, which consisteth in Revelation, or Inspiration, there have not been any Universall Lawes so given, because God speaketh not in that manner, but to particular persons, and to divers men divers things.-- Thomas Hobbes, LEVIATHAN: PART II. OF COMMON-WEALTH: CHAPTER XXXI. OF THE KINGDOME OF GOD BY NATURE

(神は、自らの法を3つの方法で示す。自然理性の指示、啓示、そして奇跡の作用によって他者との信用を得たある人の声によって。ここから3つの神の言葉が生まれる。理性的な言葉、感覚的な言葉、預言的な言葉である。これには、3つの聞き方が対応する。正しい理性、超自然的な感覚、信仰である。啓示や霊感からなる超自然的な感覚については、普遍的な法則はこのように規定されてはいない。なぜなら、神はそのような方法ではなく、特定の人物に、そして多様な人物に、多様なことを語るからである)―ホッブズ『リヴァイアサン』第2部 コモンウェルスについて 第31章 自然による神の王国について

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