オークショット「大学にふさわしい『政治学』教育について」(13)マスター・サイエンスとしての政治学

The descriptions we have of this so-called 'master science" do not present it as an enterprise in which events are understood in terms of the operation of general laws, but (more modestly) as ‘a systematic, organized, teachable body of knowledge’ springing from the study of political ideas, of the constitutions and processes of governments, of the structure and operation of political parties and groups, of the generation of public policy and public opinion and of the relations between states. From this knowledge it is designed to elicit a 'body of rational principles' concerning political activity and the administration of public affairs. -- Michael Oakeshott, The study of ‘politics’ in a university: TWO

(このいわゆる「マスター・サイエンス」について今ある説明によれば、それは、出来事を一般法則の働きという観点から理解する活動ではなく、(より控えめに)政治思想、統治の構造と過程、政党と政治集団の構造と運営、公共政策と世論の生成、国家間の関係についての研究から生まれる「体系的、組織的、教授可能な知識体系」とされている。この知識から、政治活動や公務の運営に関する「合理的原理の体系」を引き出すことが意図されているのである)―オークショット『大学における「政治」の研究』:第2

 「マスター・サイエンス」とは、「科学の主(あるじ)」ということである。

《かつて、マスター・サイエンスmaster science(統合科学)の地位を与えられていた政治学は、現在、隣接諸科学からの激しい研究領域上の侵犯を受けている。政治学は経済学、法学、経営学、社会学、心理学などとともに社会科学の一分野として位置している。そして、統合的役割を果たすために、あらゆる学問をまとめて、社会的現実の的確な予測と価値方向定位を可能にしなければならないという使命を内包している。

丸山真男(まさお)は政治学の研究者を評して「あらゆることについて何事かを知っており、何事かについてあらゆることを知っている人」と述べ、それはオーケストラの指揮者のような人であると規定する。つまり、オーケストラのあらゆる楽器についての知識dilettantismと指揮法についての完全な知識professionalismの双方を身につけていることである。

政治学の研究者には、政治学が本来統治の術であり、そのためにあらゆる情報を分析して判断するものであるから、必然的に学際的な協同研究の姿勢がみられるのである。一方、複雑・多岐化している社会現象に対しては、どうしても複眼的なアプローチが必要である。そのためにも、もっとも複雑な機構と機能を有する「権力」を研究対象とする政治学が広い知識の利用を試みて、いろいろな隣接科学との協同研究を行うことが必要となる。

政治学の学際的研究が進むとき初めて、政治学の社会科学における学問的位置が確定し、その存在が示されるといわれる。(福岡政行「政治学」:日本大百科全書(ニッポニカ))

 政治は、我々の実生活に応用するために、専門分化された諸科学を統合し、活用するハブ(hub)的存在なのである。

「このマスター・サイエンスに求められる希望と期待」について考えるならば、この科学が政治的行政的活動の教育を具体化するものであることは疑いない。すなわち、この科学の「其の目的」は、社会道徳の諸原理を確立するために人類の道徳的問題を研究することであり、政治的組織と政治的行動を導く諸原理を定式化し、人間による統治を改善するために政治的概念と行動を解明することであり、戦争回遊、国際平和と安定、自由の伸長、途上国の発展援助、土着民の搾取の防止などの問題を解明し、生活水準の向上と繁栄を導く手段として政治を用い、文盲、不衛生、貧困と病いを社会奉仕により追放し、人類の福祉と尊厳を増大させることであり、更に人類が直面する政治問題を解決し、社会の人々の病いや争いを和らげ、国民に平和と安全の方策を示すことである。(オークショット「大学にふさわしい『政治学』教育について」、p. 381

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