オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(53)アリストテレスの言う「誇り」

pride implies greatness, as beauty implies a goodsized body, and little people may be neat and well-proportioned but cannot be beautiful. On the other hand, he who thinks himself worthy of great things, being unworthy of them, is vain; though not every one who thinks himself worthy of more than he really is worthy of in vain. The man who thinks himself worthy of worthy of less than he is really worthy of is unduly humble, whether his deserts be great or moderate, or his deserts be small but his claims yet smaller. And the man whose deserts are great would seem most unduly humble; for what would he have done if they had been less? The proud man, then, is an extreme in respect of the greatness of his claims, but a mean in respect of the rightness of them; for he claims what is accordance with his merits, while the others go to excess or fall short. -- Aristotle, Nicomachean Ethics, Book 4, Chapter 3

(誇りは、美しさが可成り大きな体を意味し、小人は端正で均整がとれていても、美しくはあり得ないように、大きいことを暗示する。他方、実際は大事に相応しくないのに、自分が大事に相応しいと考える者は、自惚れが強い。しかし、自分が実際以上のものに相応しいと考える者がみんな自惚れ屋なのではない。自分に実際に価値があるものよりも少ない価値しかないと考える者は、自分の業績が大きくても程ほどでも、あるいは業績が小さければ自分の主張はさらに小さくなり、過度に謙虚なのである。そして、自分の業績が大きい人であれば、最も過度に謙虚だと思われるだろう。もし業績がもっと小さかったら、彼は何のためにしただろうか? というのは,誇り高き人は,自分の主張の大きさについては極端であるが,その正しさについては中庸だからである。というのは、彼は自分の功績に見合ったものを主張し、他者は過剰になったり不足したりするからである)―アリストテレス『二コマコス倫理学』第4巻 第3章

他のあらゆるモラリストと同様に、ホップズはこれ(=自己愛)を悪徳であり人間の環境の平和な状態への絶対の障害であると認めた。それは破壊するネメシスを呼び起こす誇りであり、ヘラクレイトスが火よりも先に消さなければならないと言った誇りである。しかし、ドゥソス・スコトクスが言ったように、悪徳というものは存在しない。それは美徳の影である。

そして神に似ることの第2の仕方では、自己愛は自己認識と自尊心として現われ、他者に対する権力の幻影は自制心の現実にとってかわられ、勇気から来る恐れを知らない栄光は度量の大きさを生み、それは平和を生む。これはゼウスによってパンを生んだと言われるニンフのヒュブリスにまで遡(さかのぼ)る誇りの徳である。それはアリストテレスの「衿持ある人(megalopsychos)」や、もっと低いレベルではストア派の賢人の中に反映している誇りであり、中世の道徳神学の中に現われる「聖なる誇り(sancta superbia)」だった。そしてそれはホップズによって、自己の本性を保全し、自己を恥ずかしい死の恐怖やその恐怖が生み出す争いから解放するための方法として認められたのだが、その方法は恐怖と理性が示唆する方法の代わりになるものだった。(オークショット「ホッブズの著作における道徳的生」(勁草書房)、p. 347

コメント

このブログの人気の投稿

アダム・スミス「公平な観察者」について(18)impartial spectator

アダム・スミス「公平な観察者」について(32)fellow-feeling

バーク『フランス革命の省察』(33)騎士道精神