バーク『フランス革命の省察』(10)人々を誤導する革命の光

The opinions of men with respect to government are changing fast in all countries. The Revolutions of America and France have thrown a beam of light over the world, which reaches into man. The enormous expense of governments has provoked people to think, by making them feel; and when once the veil begins to rend, it admits not of repair. Ignorance is of a peculiar nature: once dispelled, it is impossible to re-establish it. –- Thomas Paine, Rights of Man

(統治に関する人々の意見は、すべての国々でどんどん変化している。アメリカとフランスの革命は、人間にまで及ぶ一筋の光を世界中に投げ掛けた。統治の莫大な経費は、人々を痛感させ、考えるように仕向けた。そして一度覆いが引き裂かれ出すと、修復の余地はない。無知は特殊な性質を持ち、一度払拭(ふっしょく)されると、復することは不可能である)―トマス・ペイン『人間の権利』

 アメリカ革命とフランス革命を一括りにして論じているところからも、ペインの論理が粗雑であることが分かる。アメリカの独立宣言とフランスの人権宣言は、宣言という名前は同じでも、性質はまったく異なる。両革命が、同じ権力争いに見えてしまっているとすれば大間違いである。

It is not originally a thing of itself, but is only the absence of knowledge; and though man may be kept ignorant, he cannot be made ignorant. The mind, in discovering truth, acts in the same manner as it acts through the eye in discovering objects; when once any object has been seen, it is impossible to put the mind back to the same condition it was in before it saw it. – Ibid.

(無知は、元々それ自体のものではなく、知識の欠如に過ぎない。そして、人間は、無知であり続けることはあっても、無知にすることはない。心は、真理を発見する際に、目を通して対象を発見するのと同じように作用する。一度何らかの対象が見えてしまうと、それを見る前と同じ状態に心を戻すことは不可能である)― 同

 啓蒙の光が「真実」を照ら出したのだとすれば、それは真(まこと)に結構な話である。が、すべての光が「真実」を照らし出すわけではない。詰まり、何かを知るということは、知らなくても良いこと、知らない方がよいことを知ってしまう可能性もあるということである。不要な知識、有害な知識も「知識」である。ただ無知を解消すればよいという話ではない。

Those who talk of a counter-revolution in France, show how little they understand of man. There does not exist in the compass of language an arrangement of words to express so much as the means of effecting a counter-revolution. The means must be an obliteration of knowledge; and it has never yet been discovered how to make man unknow his knowledge, or unthink his thoughts.

Mr. Burke is labouring in vain to stop the progress of knowledge – Ibid.

(フランスで反革命を口にする人々を見れば、彼らが人間について如何に理解していないのかが分かる。反革命を達成する手段さえも表現する言葉の配列は、言語の範囲内には存在しない。その手段は、知識を抹殺することでなければならない。そして、人間に自分の知っていることを知らなくさせたり、自分の思っていることを思わなくさせたりする方法は、未だかつて発見されてはいないのだ。

 バーク氏は、知識の進歩を止めようと努力されているが無駄なことだ)― 同

 「フランス人権宣言」によって人々は権利意識に眼覚め、暴動へと熱狂した。それが「フランス革命」であった。が、言うまでもなく、「暴力革命」が正当化されるのは、ルサンチマン(怨嗟)から生まれた左翼思想の中だけである。自分たちは権力者に抑圧されている犠牲者である。だから、自分達には権力者を抹殺する権利がある、などと考えることがどれほど危険なことか。

 我々は暴力を正当化する「知識」を得てしまった。最早これを消すことは出来ない。が、これが正しくない「知識」であることを理解することは可能である。「知識」自体は消せないにしても、これを抑え込むことは可能である。一度知ってしまったら、もう逆戻りは出来ない、「理想社会を実現するためなら、暴力もまた正義なのだ」などというような短絡的な話にはならないということである。

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