バーク『フランス革命の省察』(12)虚に吠えるペイン

《歴史的にいえば、バークは正しく、ペインは誤っていた。というのは、人権宣言が過去に耳を傾けることのできたような時代は歴史上存在しなかったからである。それ以前の幾世紀に、神と神々の前で人間は平等であると認められていたかもしれない。しかし、このことを認めたのはキリスト教ではなくローマがその起源である。つまり、ローマの奴隷は宗教的団体のなかでは一人前の成員となることができたし、宗教的法律の枠のなかでは、彼らの法的地位は自由人のそれと同一であった。

しかし、バークにもそう思えたように、われわれ以前のあらゆる時代にすべての人間が生まれながらに譲渡不可能の政治的権利が与えられていたと見ることは表現上の矛盾である。そして、「人間」という言葉に相当するラテン語のhomoという言葉が、もともとは人間以外の何者でもない者、権利を奪われている人、したがって奴隷を意味していたということは興味深く、注目すべきことである》(ハンナ・アレント『革命について』(ちくま学芸文庫)志水速雄訳、pp. 62f)

You will observe, that, from Magna Charta to the Declaration of Right, it has been the uniform policy of our Constitution to claim and assert our liberties as an entailed inheritance derived to us from our forefathers, and to be transmitted to our posterity, —as an estate specially belonging to the people of this kingdom, without any reference whatever to any other more general or prior right. By this means our Constitution preserves an unity in so great a diversity of its parts. We have an inheritable crown, an inheritable peerage, and a House of Commons and a people inheriting privileges, franchises, and liberties from a long line of ancestors.

(マグナ・カルタから権利宣言に至るまで、私達の先祖から私達に来たり、私達の子孫に伝えられる限嗣(げんし)相続財産として、すなわち、この王国の国民に特別に帰属する財産として、他の如何なる一般権や先行権と全く関係なく、私達の自由を主張するのが、我が国の憲法の一貫した方針であることがお分かりでしょう。このような手段によって、我が国の憲法は、部分部分が非常に多様である中で統一が保たれています。私達は、相続可能な王位、相続可能な貴族階級、そして歴代の先祖から特権や自由を相続している下院と国民を有しているのです)― cf. 半澤訳、43

This policy appears to me to be the result of profound reflection, —or rather the happy effect of following Nature, which is wisdom without reflection, and above it. A spirit of innovation is generally the result of a selfish temper and confined views. People will not look forward to posterity, who never look backward to their ancestors.

(この方針は、深遠な省察の結果、いやむしろ、省察なく、省察を超えた英知である自然に従った幸せな結果だと私には思われるのです。革新の精神は、一般的に利己的な気質と狭い考えの結果です。先祖を決して振り返らない人は、子孫を期待することもないでしょう)― cf. 半澤訳、pp. 43f

Notwithstanding the nonsense, for it deserves no better name, that Mr. Burke has asserted about hereditary rights, and hereditary succession, and that a Nation has not a right to form a Government of itself; it happened to fall in his way to give some account of what Government is. “Government,” says he, “is a contrivance of human wisdom. –- Thomas Paine, Rights of Man

(バーク氏が世襲権や世襲相続について主張し、そして国民には自ら政権を樹立する権利はないという戯言(たわごと)(これ以上よい名称に値しない)にもかかわらず、たまたま政治とは何かについて少し説明することがバーク氏に転がり込んできた。「政治は、人間の英知が考え出したものだ」とバーク氏は言う)―トマス・ペイン『人間の権利』

Admitting that government is a contrivance of human wisdom, it must necessarily follow, that hereditary succession, and hereditary rights (as they are called), can make no part of it, because it is impossible to make wisdom hereditary; and on the other hand, that cannot be a wise contrivance, which in its operation may commit the government of a nation to the wisdom of an idiot. The ground which Mr. Burke now takes is fatal to every part of his cause. – Ibid.

(政治が人知の考案品であることを認めるなら、必然的に、世襲継承や世襲権(と称するもの)は政治の一部にはなり得ないことになる。なぜなら、英知を世襲することは不可能だからだ。他方、その運用において国家の統治を馬鹿の英知に委ねかねない英知の考案品など有り得ないからだ。バーク氏が今持っている意見は、彼の大義のどの部分にとっても致命的である)― 同

 ペインは反論することに躍起過ぎて、バークの言っていることが見えていない。無論、英知は世襲できないだろう。が、バークが言っているのは、王位継承は世襲でなければならないということであって、王位継承自体が英知なのではない。また、ペインは、<国家の統治を馬鹿の英知に委ねかねない>などと、それこそ<戯言>を言っているが、バークの言う<英知>は、英国の歴史の中に宿る英知なのであって、国王一人の英知ではない。ペインは、英国王を専制君主と勘違いしてもいる。英国の「王は君臨すれども統治せず」の意味も分かっていない。

コメント

このブログの人気の投稿

オークショット『政治における合理主義』(4) 合理という小さな世界

ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』(102)遊びと科学

ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』(86)エビメテウス、プロメテウスの神話 その2