バーク『フランス革命の省察』(13)英米とは異なるフランスの土壌

《フランス革命における人権の複雑さは多方面にわたっている。そして人権にたいするバークの有名な反論は、時代遅れなものでも「反動的」なものでもない。人権宣言がモデルにしたアメリカの権利章典と異なって、フランス革命における人権は、人間の政治的地位ではなく、人間の自然に固有の基本的・実体的権利を明らかにすることをその目的としていた。この人権は実際、政治を自然に還元しようとしたのである。これと反対に権利章典のほうは、あらゆる政治権力にたいする永久的で抑制的な統制を設定することをその目的にしており、したがって、政治体の存在と政治権力の機能を前提にしていた。(ハンナ・アレント『革命について』(ちくま学芸文庫)志水速雄訳、p. 161)

 前にも、ペインがアメリカ革命とフランス革命を一緒くたにしていることを問題にしたが、<人権>ということにおいても、アメリカの権利章典が現実的で政治的なものであるのに対し、フランスの人権宣言は、非現実的で観念的なものであった。やはり、2つの革命を安易に同一視すべきではない。

《フランスの人権宣言は、革命のなかで理解されるようになったとおり、あらゆる政治権力の源泉を構成すること、政治体の統制ではなく、政治体の礎石を確立することをその目的とした。新しい政治体は、人間の自然的権利に、そして人間が自然的存在以上のものでないという意味での人間の権利に、さらに「食べ、着、種を再生産する」人間の権利、つまり、生存のための必要にたいする人間の権利に依存するものと考えられていた。

そして、これらの権利は、政府や政治権力がそれに触れたり侵害する権利をもたぬ政治以前の権利としては理解されず、政府や権力の最終的目的であると同時にその内容そのものであると考えられた。アンシャン・レジームが告発されたのは、自由の権利と参政権を奪ったためというよりは、このような生存と自然の権利を被支配者が剥奪されたためであった》(同、pp. 161f

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the people of England well know that the idea of inheritance furnishes a sure principle of conservation, and a sure principle of transmission, without at all excluding a principle of improvement. It leaves acquisition free; but it secures what it acquires. Whatever advantages are obtained by a state proceeding on these maxims are locked fast as in a sort of family settlement, grasped as in a kind of mortmain forever. By a constitutional policy working after the pattern of Nature, we receive, we hold, we transmit our government and our privileges, in the same manner in which we enjoy and transmit our property and our lives.

(イングランドの人々は、相続という考えが、改善の原理を少しも排除することなく、確かな保存原理と確かな伝達原理を齎(もたら)すことをよく知っています。相続は、取得を自由に放任しておきますが、取得したものは守ります。これらの原理に基づいて行動する国家によって得られる利益は何であれ、一種の家族継承財産のようにしっかり鍵を掛けられ、一種の死手(ししゅ)譲渡のように永遠に保持されます。自然の模範に倣(なら)って機能する憲法の政策によって、私達は、自らの財産と自らの生命を享受し、伝達するのと同じやり方で、私達の政府と私達の特権を受け取り、維持し、伝達するのです)― cf. 半澤訳、p. 44

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