バーク『フランス革命の省察』(9)トマス・ペインの反発
トマス・ペインは、バークのフランス革命批判に反発する。
Before
anything can be reasoned upon to a conclusion, certain facts, principles, or
data, to reason from, must be established, admitted, or denied. Mr. Burke with
his usual outrage, abused the Declaration of the Rights of Man, published by
the National Assembly of France, as the basis on which the constitution of France
is built. This he calls “paltry and blurred sheets of paper about the rights of
man.” –- Thomas Paine, Rights of Man
(何事であれ、結論に至るまで推論する前に、推論するための一定の事実、原則、データなどが確立され、認められ、あるいは否定されなければならない。バーク氏は、フランスの国民議会によって発表された「人間の権利の宣言」を、フランス憲法が築かれる基礎として、いつものように憤慨し罵倒した。これを彼は、「人間の権利についての薄っぺらで不鮮明な文書」と呼んでいる)―トマス・ペイン『人間の権利』
が、このように言うペインも、「人間の権利」については、要は「人間には権利があるのだ」と言い張っているだけである。が、どうしてただ人間であるというだけで権利があることになるのか。バークが批判しているのは、この独善的な考え方である。
Does Mr.
Burke mean to deny that man has any rights? If he does, then he must mean that
there are no such things as rights anywhere, and that he has none himself; for who
is there in the world but man? – Ibid.
(バーク氏は、人間に権利があることを否定しようというのか。そうなら、その時、権利などというものはどこにもないし、彼自身にもない、ということになる)
人間という抽象的存在に権利などない。権利があるのは、例えば、イギリスという国において人々が祖先より継承してきた「イギリス人としての権利」である。「人間の権利」などというものは認められない。認めるべきは「国民の権利」だ、というのがバークの主張である。
But if Mr.
Burke means to admit that man has rights, the question then will be: What are those
rights, and how man came by them originally? – Ibid.
(しかし、バーク氏が人間に権利があることを認めようというのなら、問題は、その時、その権利とは何か、そして人間がもともとどのようにしてその権利を手に入れたのか、ということになるだろう)―
同
バークは、人間は誰でも権利があるなどという抽象論ではなく、イギリス人の世襲的権利といった具体論でなければならないと言っているのである。
The error
of those who reason by precedents drawn from antiquity, respecting the rights
of man, is that they do not go far enough into antiquity. They do not go the
whole way. They stop in some of the intermediate stages of an hundred or a
thousand years, and produce what was then done, as a rule for the present day. This
is no authority at all. – Ibid.
(人間の権利について、古代から引き出された先例によって推論する人々の間違いは、古代に十分踏み込んでいないことだ。彼らは全部の道を行くわけではない。彼らは、百年あるいは千年の中間段階で立ち止まり、当時行われたことを現代の規則として作り出す。これでは全く権威がない)―
同
具体的に先人の承認を積み重ねてきたものだからこそ「権威」が認められるのであって、むしろペインのような独善的観念論こそ「権威」などないと言うべきではないか。
If we travel
still farther into antiquity, we shall find a direct contrary opinion and
practice prevailing; and if antiquity is to be authority, a thousand such
authorities may be produced, successively contradicting each other; but if we
proceed on, we shall at last come out right; we shall come to the time when man
came from the hand of his Maker. What was he then? Man. Man was his high and
only title, and a higher cannot be given him. – Ibid.
(さらに古代に遡(さかのぼ)ると、率直な反対意見や慣習が広まっていることに気付くだろう。もし古代を権威とするならば、千のそういった権威が作り出され、引き続き、互いに矛盾するかもしれない。しかし、さらに進むと、ついに正しい結論に達するだろう。その時、彼は何だったのか。人間です。人間は、高くて唯一の権利であり、これ以上の称号を与えることはできない)―
同
ペインに人間を礼賛したい気持ちがあるのはよく分かるが、私には気持ち悪い。
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