バーク『フランス革命の省察』(69)時効原理の意味
《このように見てくるならば、時効とは過去と現在の連続性、政治的秩序のすべての部分間の連帯性等、その洞察が正しい政治的推論の本質的条件をなすごとき諸々の事実の法的表現にほかならぬことが分かる。現実的諸事実に対する顧慮と新しく必要とされる条件への配慮の結合はバークが説く実践的教説の根柢に存在しており、それはちょうど一般原理への顧慮とその特殊的応用への顧慮の程よい均衡が彼の哲学を支えているのと同様である》(L・スティーヴン『十八世紀イギリス思想史 下』(筑摩叢書)中野好之訳、p. 108)
<時効>とは、過去から現在までの時間の積み重ねの上に成り立つ原理である。そこには、変更の必要を認めなかったという意味で、多くの人々の暗黙の了解があったと考えられる。また、もう1つ大切なことは、<時効>の原理は、今の権力者の権力を免れた客観的な原理だということである。<時効>を認めないとすれば、権力者の恣意に振り回されることとなり、社会秩序は非常に不安定なものとなってしまうであろう。
《「古い制度の存在理由の消滅後も依然としてそのお荷物だけを維持しつづけるのは愚劣なことである。それはちょうど保存のために用いられる薬物の価値にならぬような屍体を迷信深く防腐しようとするようなものだ」と彼は述べる。その同じ演説で彼はさらに「もしも私が公正な仕方で改革しえないならは、私はゆめゆめ改革を起こそうとは思わない」と付言する。
この2つの考えが『考察』の中で結びついている。「われわれがこれまでなしとげてきた改革は、すべて古代に対する畏敬の原理にもとづいていた」と彼はいう。われわれは自分たちの自由をば「限定財産」として父祖から受けついだのであり、そしてわれわれはそれを完全な形のままわれわれの子孫に伝える義務を有する。だからバークによれば、「為政者の尺度となるものは保存への意志と改善への能力の結合」にほかならない》(同、p. 108)
We
entertain a high opinion of the legislative authority; but we have never dreamt
that Parliaments had any right whatever to violate property, to overrule
prescription, or to force a currency of their own fiction in the place of that
which is real, and recognized by the law of nations. But you, who began with
refusing to submit to the most moderate restraints, have ended by establishing
an unheard-of despotism.
(私達は、立法権を高く評価しますが、議会が所有権を侵害したり、時効を覆したり、実在し、国際法によって認められている通貨に代えて、自分たちで作り出した通貨を強制する権利があるとは、夢にも思ったことがありません。しかし、最も緩やかな制限にさえ服することを拒否することから始めた貴方方は、前代未聞の専制政治を確立することに終わってしまったのです)―
cf. 半澤訳、p. 191
I find the
ground upon which your confiscators go is this: that, indeed, their proceedings
could not be supported in a court of justice, but that the rules of
prescription cannot bind a legislative assembly. So that this legislative
assembly of a free nation sits, not for the security, but for the destruction
of property, —and not of property only, but of every rule and maxim which can
give it stability, and of those instruments which can alone give it
circulation.
(貴方方の没収者が頼る根拠はこういうことでしょう。確かに、彼らの行動は司法裁判所では支持され得ませんが、時効の規則は、立法議会を拘束することはできません。詰まり、自由な国家のこの立法議会は、所有権の保証のためではなく、所有権の破壊、すなわち、所有権だけでなく、所有権に安定性を与えるあらゆる規則や原則、そして唯一所有権を流通させ得る道具を破壊するために、開かれるのです)―
cf. 半澤訳、pp. 191f
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