ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』(85)エピメテウス、プロメテウスの神話 その1

『プロータゴラース』の中でも、まったくユーモラスな調子で、エピメーテウス、プロメーテウスの神話が物語られる。(ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』(中央公論社)高橋英夫訳、p. 258

「むかしむかし、神々だけがいて、死すべき者どもの種族はいなかった時代があった。だがやがてこの種族にも、定められた誕生の時がやってくると、神々は大地の中で、土と、火と、それから火と土に混合されるかぎりのものを材料にして、これらをまぜ合わせて死すべき者どもの種族をかたちづくったのである。そしていよいよ、彼らを日の光のもとへつれ出そうとするとき、神々はプロメテウスとエメテウスを呼んで、これらの種族のそれぞれにふさわしい装備をととのえ、能力を分かちあたえてやるように命じた。しかしエピメテウスはプロメテウスに向かって、この能力分配の仕事を自分ひとりにまかせてくれるようにたのみ、『私が分配を終えたら、あなたがそれを検査してください』と言った。そして、このたのみを承知してもらったうえで、彼は分配をはじめたのである。

 さて、分配にあたってエメテウスは、ある種族には速さをあたえない代りに強さを授け、他方カの弱いものたちには、速さをもって装備させた。また、あるものには武器をあたえ、あるものには、生まれつき武器をもたない種族とした代りに、身の保全のためにまた別の能力を工夫してやることにした。すなわち、そのなかで、小さい姿をまとわせたものたちには、巽を使って逃げることができるようにしたり、地下のすみかをあたえたりしてやった。丈たかく姿を増大させたものたちには、この大きさそれ自体を、彼らの保全の手段とすることにした。そして同じように公平を期しながら、ほかにもいろいろとこういった能力を分配したのである。これらを工夫するにあたって彼が気を使ったのは、けっしていかなる種族も、滅びて消えさることのないようにということであった。

 こうして彼らのために、お互いどうしが滅ぼし合うことを避けるための手段をあたえると、今度は、彼らがゼウスのつかさどるもろもろの季節に容易に順応できるような工夫をしてやることにして、冬の寒さを充分にふせぐとともに、夏の暑さからも身をまもることのできる手段として、厚い毛とかたい皮とを彼らにまとわせ、また、ねぐらに入ったとき、同じこれらのものが、それぞれの身にそなわった自然の夜具ともなるように考慮してやった。さらに、履(は)きものとしては、あるものには蹄(ひづめ)をあたえ、あるものには血の適わぬかたい皮膚をあたえた。(「プロタゴラス」藤沢令夫訳:320D-321B:『プラトン全集8』(岩波書店)、pp. 136f



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